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（７／１５） |
| 決戦当日未明、ヤマトはようやく七色星団にたどりついた。波動エンジンに無理を強いれば半日ぐらいの余裕を生み出せたかも知れないが、その副作用で火器兵装に障害を被れば決戦どころの話ではない。とくにエンジントラブルによって波動砲が使用不能になれば、数に劣るヤマト側が圧倒的に不利になってしまう。 土方は戦場間近に到着すると同時に、コスモゼロ３機による偵察部隊を発進させた。索敵の遅れを一刻でも早く挽回しなければならない。コスモゼロ１号機はブラックタイガー隊隊長・加藤三郎がヤマトの進行方向前方の七色星団中心方向へ向かって索敵を開始した。２号機はブラックタイガー隊員・鶴見二郎がヤマトの右舷方向の暗黒星雲を、そして３号機は真田技師長とアナライザーが左舷方向の索敵に向かった。 残った乗組員を集合させた土方は決戦に当たっての訓示を述べるとともに、水杯を酌み交わした。その直後、ヤマトは第一級戦闘配備を敷いた。 「総員に告ぐ。この決戦に勝利せよ！」 ヤマトの状況は、ドメル将軍があらかじめばら撒いておいた偵察ポッドにより、逐一報告されており、ガミラス艦隊からは手に取るように見えていた。 「いよいよ来たな、ヤマト」 ドメルは円盤型の旗艦で余裕たっぷりとその様子を眺めていた。 「ヤマトから偵察機が発進しましたが、いかがしますか？」 副官のゲールが心配そうに訊ねるが、ドメルは意にしていない素振りだった。 「放っておけ。あの程度の偵察機の数では暗黒星雲に潜んだ我が艦隊を探し出すことは不可能に近い。それに、すでにキャスティング・ポードはこちらが握っているのだ」 ドメルはそう言うと通信装置のマイクを取った。 「第１空母に伝達。戦闘機隊を出せ！ ヤマトの艦載機を誘き出して撃滅、制空権を手中に収めるのだ！」 指令を受けた第１空母は隊長ゲットーの直率する戦闘機隊が発進し、編隊となってヤマトに向かって飛び立って行った。 「司令、瞬間物質移送装置はお使いにならないので？」 「戦闘機隊の目的はヤマトの艦載機をヤマトから引き離すことにある。出来るだけ遠方でヤマトに発見されることが望ましいのだ。とっておきの新開発の使い道は後に用意してあるのだよ、ゲールくん」 機動艦隊の位置を紛らわすために迂回しつつヤマトに向かったガミラス戦闘機隊は、ヤマトからの偵察機のいずれにも出くわすこと無く、ヤマトのレーダー圏内に出現した。 「２時の方向に敵飛行編隊出現！」 「偵察機からの索敵報告は？」 土方は相原通信士に訊ねた。 「報告はありません」 「偵察機の少なさの弱点が見事に現れたな」 島がつぶやいた。 「何をやっているんだ、加藤たちは？ 偵察機を２時方向に集中させましょう」 「待て。陽動作戦や伏兵の危険性もある。各機の担当空域の変更はならん」 土方はそう言うと古代にブラックタイガー隊の出撃を命じた。 「迎撃機隊を出せ。敵に制空権を渡しては、数の上でも遥かに不利になる。ただし、敵の目的は陽動かも知れん。１個編隊だけで戦況を判断する」 「わかりました」 古代は土方の指示を受けるとマイクに向かって命じた。 「ブラックタイガー第２編隊発進準備！ 山本、出番だぞ」 「こちらブラックタイガー隊・山本、了解！」 艦載機格納庫から第２編隊のリーダー、山本明が答えた。 「艦長、自分も出撃します」 古代はそう言って許可を仰ぐ。 「慌てるな、古代。目的不明の敵編隊の相手に戦闘班長自ら出撃する必要はない」 土方の指示で出撃を断念した古代は、山本に発進の命令を出した。 「ブラックタイガー隊、発進！！」 艦底の艦載機発進口が開き、ブラックタイガーは次々に発進して行った。 ブラックタイガー出撃の様子は、すぐさまドメル艦隊に察知されていた。 「ドメル司令、ヤマトの艦載機が出撃してきましたが・・・」 「思う壷だ。こちらの戦闘機を陽動作戦とは気付いていまい。適当にあしらいながらヤマトから引き離してやれ！」 ドメルはほくそえんだ。しかし、彼は大きな誤解をしていることに気付いてはいなかった。彼は戦艦であるヤマトにそれほど多数の艦載機が搭載されているとは思わず、出撃してきたブラックタイガーをすべてだと思い込んだのだった。 すべては正面からヤマトに艦隊攻撃を仕掛けることを常に避けてきたドメルの作戦方針のために、ついにヤマト側の航空戦力の全てを把握することが出来なかったという自業自得のようなものであった。しかし、この不運が決戦のすべての結果を左右することになるとは、この時のドメルには知る由も無かった。 ヤマトの右舷前方から接近してきたガミラス戦闘機隊に対して出撃した山本率いるブラックタイガー第２編隊は、数に優る敵編隊に対して果敢に挑みかかって行った。 一方、ガミラス戦闘機隊を率いるゲットーは、当初の手筈通り、ヤマト艦載機の撃滅よりも陽動作戦としての徹底を図っていた。 「ガミラス機は浮き足立っているぞ。このまま追撃して一気に撃滅してやる」 山本は敵編隊の計略とも知らず、来た方向へ転進していくガミラス戦闘機隊を追いかけようとした。 「古代、山本隊をただちに引き返させろ。これはヤマトの防空態勢を弱めようとする敵の罠だ」 土方は古代に命じた。 「しかし、艦長。ヤマトの防衛には第１編隊が残っています。逃げる敵機を追撃して敵の本隊を突き止めた方が・・・」 「敵本隊の探知は偵察部隊に任せろ。この決戦は長丁場になるぞ。ブラックタイガー隊の給油が必要になるが、その隙を敵に突かれることがあってはならん！ 確実に敵本隊の位置を掴むまでは、第１編隊と第２編隊は交互で敵攻撃機の迎撃に当てる必要がある」 土方の指示により古代は敵編隊を追撃しようとする山本編隊を呼び戻した。 この時、ドメル艦隊ではすでに第２空母の急降下爆撃部隊が発進していた。 「急降下爆撃部隊、全機ワープ光線のエリアに入りました！」 円盤旗艦の艦橋でドメルは瞬間物質移送装置のスイッチに指を掛けていた。 「この最新兵器を使う時がやってきたぞ。ヤマトの驚く顔が思い浮かぶようだ」 ドメルはそう言って笑った。 「司令、ヤマト艦載機が戦闘機部隊の追撃を中止して引き返しますが・・・」 「多少の誤差は予測の範囲だ。作戦に変更は無い！」 スイッチを押すドメル。 円盤旗艦に設置された２基の瞬間物質移送装置から光線が放射され、その交点にいた急降下爆撃機の編隊は次々と姿を消していく。 「転送成功です」 「よし、次は雷撃機隊だ。第３空母に発進準備をさせろ」 急降下爆撃隊はヤマト後方の空間に突如として出現した。索敵レーダーを監視していた森雪をはじめ、艦橋のスタッフ達はパニックに襲われる。 「落ちつけ！ 山本隊に迎撃させろ」 土方は沈着冷静に叱咤し、指示を与える。 「島、どう思う？」 「厳密に計測してみなければわからないが、おそらくワープのようなものじゃないかな」 島は古代の問い掛けにそう答えた。 「艦載機がワープ？ ガミラスは艦載機まで波動エンジンを搭載してきたというのか？」 驚いたように南部が言った。 「確かにガミラスの技術力は地球のものより遥かに進んでいるが・・・わしには信じられん」 徳川機関長は呟いた。 「いや、そうではあるまい。確かにワープの出現パターンだが、それにしては各機の出現パターンが一致しすぎている。これは推測に過ぎないが、敵は編隊そのものを一塊として空間ごとワープさせ得る装置を開発したのかもな・・・」 島はそう言った。 「そんな・・・物質を自在にワープできる装置なんて！ そんなの相手にして、とても勝ち目はありませんよ！」 「落ちつけ、相原。敵がワープで来ようが何で来ようが、俺たちは来た敵を確実に叩くまでだ」 うろたえる相原を叱咤する古代。 「そうだ、古代の言うとおりだ。ガミラスがどんな新兵器を使ってくるかはわからんが、我々は我々の戦い方をするまでだ」 土方は力強くそう言い放った。 ガミラス急降下爆撃機の攻撃は熾烈を極めたが、ヤマト側の必死の応戦もあって戦果は上がらなかった。特に支援戦闘機を欠いた爆撃機のみの編成のため、戦闘機部隊の追撃を中止して引き返してきた山本編隊の前には格好の標的であり、ドメルの思惑に反して次々と撃墜されていった。 「ええいっ。せめてヤマトの目ぐらいは叩き潰せんのか！」 いらだつドメル。しかし、天が彼に味方したのか、急降下爆撃機の攻撃の一部が司令塔に設置されているヤマトのレーダーアンテナに命中し、これを木っ端みじんに吹き飛ばした。 ヤマトのレーダーは沈黙した。むろん、メインのアンテナが破壊されても予備のアンテナが残ってはいる。しかしながら予備は予備でしかなく、星間物質の充満したこの空域ではレーダーとしての役目は果たさなかった。 頃合を見たバーガーは急降下爆撃隊の帰投を命じた。 「敵機はまた引き返して行きます！」 「古代隊長、今度こそ追撃させてください！」 山本は懸命に追撃許可を訴える。 「だめだ。今の爆撃でヤマトはレーダーを失った。いま追撃隊を出せば、ヤマトの防御が心配だ。それに第２編隊もそろそろガス欠だろう。敵の攻撃が止んだ今のうちに第１編隊と交代だ」 古代はそういうと、今度は土方に自分の出撃許可を乞うた。 「偵察中の加藤に代わり、自分が第１編隊の指揮を執ります」 「そうか」 土方は止むなしという表情でうなずいた。古代は一礼して飛び出していく。 「相原、偵察部隊からの報告はまだか？」 「いえ、まだ何の通信も入っていません」 敵艦載機がワープで攻撃してきているということは、敵の機動部隊はヤマトの至近距離にはいないということである。予想通り、暗黒星雲の中に潜んでいるのであろう。しかし、レーダーの破壊されたヤマトは、相手がよほど接近してこない限り発見することは出来ない。しかし、敵には確実にヤマトが見えている。 ガミラスの科学技術がいくら進んでいるとは言っても、波動エンジンの技術を応用したコスモ・レーダーの有効範囲にそれほど大きな違いはあるまい。ならば敵がヤマトを捉えているということは、相手もそれほど遠くにはいないということである。 （偵察部隊は必ず敵・機動部隊の位置を発見してくれるはずだ。レーダーを失った現状では、ヤマトの目鼻となってくれるのは３機のコスモゼロだけだ） 土方は偵察部隊の報告を待ちわびた。 |