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（８／１５） |
| ドメル艦隊ではヤマトに致命的な打撃を与えるべく、第３空母搭載の雷撃機の発進態勢に入っていた。 「ドメル司令、第３空母のクロイツから発進準備完了との報告が来ました」 パネルスクリーンに映るヤマトを見ながら思案にふけっているドメルにゲールは言った。その声にドメルは口を開いた。 「ゲールくん、君はどう思うかね？ ヤマトの艦載機をおびき寄せるための戦闘機部隊は中途半端な成果のままで引き返してきた。瞬間物質移送装置を使って送り込んだ急降下爆撃隊もやっとのことでレーダーを破壊したものの、ヤマトの兵装はいまだ万全。それに見ろ、ヤマトはまだ艦載機の半数を温存していたのだ。このまま作戦通りに雷撃部隊を送り込んで良いものか・・・？」 絶対的な自信家のドメルが部下に作戦の意見を聞くなどということはこれまでには無かったことである。意外な問いかけにゲールは一瞬戸惑った。 （これは私を試しているのか？ ・・・それとも、作戦失敗時の責任を私に擦り付けるためか？） ドメルのバラン星赴任以来、副官に落とされた上に冷遇され続けてきたゲールは疑心暗鬼だった。しかしながら、これは先に今回の作戦のことでタラン将軍に敗北感を与えられたドメルの、自信喪失の現れであった。 ドメルは万全の自信を持って実施したこの作戦が、必ずしも自分の思うように運んで行かないことに徐々に焦り始めていたのだ。 「ヤマトに無傷の艦載機部隊がある以上、雷撃隊の単独での攻撃は危険です。すでに第１空母の戦闘機部隊は最発進の準備が整いつつありますし、急降下爆撃隊もまもなく帰投してきます。もう一度反復攻撃を行った上で、雷撃機による攻撃を加えるのが上策かと・・・」 ゲールは内心びくつきながらそう答えた。 「そうだな。私も同じ意見だ。クロイツにはそのままで待機を伝えろ。ゲットーに再出撃させる」 第１空母の戦闘機部隊が再出撃の準備を進めている頃、ヤマト攻撃から帰投途中の急降下爆撃隊は、帰還先の第２空母まで間近に迫っていた。 「第２空母、こちらバーガーだ。これより帰投する。着艦準備を整えておけ」 ヤマトに艦隊の位置を知られるのを防ぐため、ドメル艦隊は長距離無線の封鎖を行っていたのだが、母艦の間近まで戻ってきたバーガーの隊長機は安心して近距離無線で連絡を取った。 しかし、この微弱な無線通信は、ちょうど付近を偵察していた真田機によって傍受されてしまったのだ。 「真田サン、がみらすノ通信えねるぎーヲ微弱ナガラきゃっちシマシタ」 「ようやく敵を見つけたか・・・おそらくヤマトを攻撃した航空機部隊だろうが、この付近に母艦が潜んでいるということだ」 真田はアナライザーに綿密な探知を命じた。程無くして真田機は暗黒星雲に潜むドメル艦隊を発見した。 「これは、強力な機動艦隊だ・・・大型空母３、特殊母艦１、新型の護衛戦艦４・・・それに、あの円盤型のは司令艦だろう。アナライザー、ヤマトに敵艦隊の位置と規模を報告しろ」 「ワカリマシタ。報告シマス」 真田機の敵艦隊発見の情報はただちにヤマトに報告された。 「艦長、このままブラックタイガー隊を率いて敵艦隊に攻撃を掛けたいと思いますが」 古代はコスモゼロのコクピットから土方に許可を求める。 「古代、気の早い奴だな。敵の艦載機の数は圧倒的に多く、また護衛戦艦の存在もあなどれん。下手につっこめば自滅するだけだぞ」 土方はそう言って古代の要求を退ける。 「相手は大艦隊だ。ヤマトの目鼻をそがれた今、正面から戦っても勝ち目はない。ここは波動砲で一気に片をつける。古代、波動砲の準備が整うまで、敵艦載機をヤマトに近付けるな！」 古代にそう命じると、土方は波動砲発射準備に取りかかった。波動砲の発射はふだんは戦闘指揮席の古代が行っているが、基本的な操艦作業同様、艦長席で行うことも可能である。 「波動砲発射準備！ 機関長、波動砲へエネルギー注入！」 「波動砲へエネルギー注入」 復唱して機関室に作業を命じる徳川機関長。 真田機の発信したドメル艦隊発見の通信は、当然のことながらドメル艦隊にも傍受されてしまっていた。むろん、同時自動翻訳式暗号通信の内容をドメル側が知る由は無かったが、自らの艦隊近辺で発せられた通信が、艦隊位置発見の報告であろうことは容易に想像できる。 「戦闘機を出して、敵偵察機を落とさせましょうか？」 ゲールは返答をうかがう。 「偵察機など放っておけ。それより、我が艦隊の位置がヤマトに知られてしまったということだ。これはどういうことかわかるか、ゲール？」 「ヤマトは反撃に出てきますな。しかし、我が艦隊はヤマト主砲の有効射程距離の外にいます。しかも、レーダーを失ったヤマトに、長距離射撃は不可能かと」 ドメルの問にゲールはそう答えた。 「バカかね、君は。ヤマトには波動砲があり、レーダーの代わりは偵察機が務めるだろう」 「では、なおさらながら敵偵察機を放って置くのは・・・」 ゲールはドメルが何を意図しているのかわからなかった。 「これは囮なのだ。ヤマトが我々を叩こうと波動砲の準備に入ったら、そのエネルギー充填のために戦力に空白ができる。そこを我が方の艦載機群で反復攻撃を行うのだ。そして、波動砲発射の前にドリルミサイルを放つ。ヤマトは波動砲が使えないまま死んでいくことになる」 ドメルはそう言って、全機発艦完了した戦闘機部隊を瞬間物質移送装置で送り出すと、第３空母の雷撃部隊および戦闘空母の重爆撃機に発進を命じた。 「これで一気に片をつけるぞ」 真田機はドメル艦隊の動向を監視し、逐一ヤマトに報告していた。その中にはドメルの円盤旗艦に備えられている瞬間物質移送装置の目撃報告も入っていた。これについて、地球へ帰還した後に真田が地球防衛軍科学局に提出した報告書には次のように語られている。 「瞬間物質移送機こそは高度に発達したガミラス文明を象徴する兵器と言えましょう。イスカンダルのオーバーテクノロジーの上に築かれた我々の宇宙波動理論と違い、ガミラス人は明らかに波動エンジンの応用理論を完成させ、実用化させています。波動エンジンがいわば閉鎖的な波動宇宙を内部に作り上げているとすれば、逆に一定の広がりをもつ解放空間をまるごと波動宇宙に変換し、ワープさせてしまうのがこのシステムの原理だと思われます。 残念ながら地球の科学力では解放空間での波動宇宙の制御は、現時点ではまったく不可能であり、少なくとも今後、数百年の間に独自の技術力で実用化させることもおそらく無理だと考えられます」 ちなみに、この文章の末尾には次のような記述がなされている。 「この偉大な発明を用いてヤマトを苦しめたドメル艦隊の戦法は、この大宇宙においてガミラスこそが行い得た独特の戦法であって、ガミラスが滅び去った現在、この偉大なる敵の文明を称えるために彼らの指導者の名を戴き、デスラー戦法と名付けることもやぶさかではありません」 約１年半後、白色彗星帝国戦の際にデスラー艦隊の襲撃を受けたヤマト艦内で南部が叫んだという「デスラー戦法か！？」という言葉は、この真田の報告書の記述が頭にあったからであろう。これを、南部は「ドメル戦法か！？」と言わなければならなかったというような批判は、本人にとって不本意なものだと思われる。 ただし、この南部の発言が当時のヤマト乗組員の間でも誤解されていたことは、その時のやり取りを記録した『宇宙戦艦ヤマト航海記録（2201年版）』（地球防衛軍・戦史室編纂）の記載を見ても明らかである。一般にヤマト乗組員の向学心は工作斑と生活班の一部の乗組員を除けば極めて薄く、真田の報告書に目を通していたのも南部ぐらいだけであったことを、この事実は示している。 ともあれ真田の報告を受けた土方は、敵の攻撃を防ぐためにはこのスーパーテクノロジー兵器の破壊が急務であると考えた。すでに波動砲のエネルギー充填に入ってはいるが、長距離ワープ後間もないヤマトの波動エネルギーは、そう易々と貯まるものではない。その間に致命的な打撃を受けては元も子もない。 土方は偵察中の加藤、鶴見の両機にこの装置の破壊を命じた。 真田機とは別方向を偵察していた加藤、鶴見の両機だが、真田機による敵艦隊発見の報告を受けた時点で合流に向かって進路変更をしていた。それはブラックタイガー隊による攻撃が有った場合に備えてのことでもあり、また真田機に増援することで偵察力の増強を図るためでもあった。 当初から偵察任務や着弾観測を目的に開発されたコスモゼロは、増槽を追加することでブラックタイガーの４倍近くの航続能力を持つことができた。その意味では非常にバランスの取れた名機であったが、なぜかヤマトに搭載された数機が実用機体のすべてで、ガミラス戦後は新機種であるコスモタイガー２にとって代わられている。この高性能のために生産コストが高くて量産向きでは無かったからだとか、操縦に癖のある機体でパイロットに嫌われたとか、実質的にオーダーメイドの機体である高名なベテラン技術者の匠の技で作られた機体だったのだが、その技術者がヤマトの地球帰還を待たずして死亡してしまったからだとか、風説に事欠かない。ガミラス戦後は古代進専用の１機だけが現役機種として残され、後の残存機はメンテナンス・パーツ用に回されてしまい、最後に残った古代専用機も対ディンギル戦でのヤマトの自爆とともに宇宙の塵と化してしまっており、もはや１機も残っていないのは、航空機マニアならずとも残念なところである。過ぎてしまったことを言っても仕方は無いが、古代には他のコスモタイガー隊員同様にコスモゼロを持ち帰ってほしかったものである。なお、地球防衛軍・戦史博物館に陳列されている機体は、古代専用機を模した完全なるレプリカである。 さて、そのコスモゼロを駆る加藤と鶴見だが、彼らの動きはドメル側にとってはまったくの盲点となり、少しも気付かれること無くドメル艦隊の至近距離まで到達することが出来た。決戦の開始早々にヤマトからの偵察機発進を掴んでいながら、これへの対策を怠ったドメル最大の失策のツケがここで回ってきたのだ。 「３機の偵察機のうち、どれか１機でも撃墜されていたなら、ヤマトは瞬間物質移送装置の餌食となって沈められていただろう」 これは後に地球連邦大学においてヤマト帰還１周年記念の講演を行った際に、土方が述べた言葉である。 加藤機が到着したとき、ドメル艦隊は雷撃部隊と重爆撃機を発進させ、瞬間物質移送装置の有効エリアへの配置を行おうとしているときであった。 「あの編隊のヤマト攻撃を許してはいかん！」 加藤は増槽を切り離し、ドメル旗艦への攻撃態勢に入った。増槽のために対艦兵装が限られているとは言え、ドメル旗艦に備えられた瞬間物資追走装置を破壊するたけの火力はあるはずだ。 そして加藤機の突入と程なくして到着した鶴見機もそれに続く。 「敵艦載機発見！」 加藤、鶴見両機の突入は、すぐにドメル旗艦の近距離レーダーによって捉えられた。 「バカな、わが艦隊の近辺に敵機など・・・」 ゲールはうろたえる。 「第１空母に予備の直掩機の発進要請を」 「うろたえるな。敵はたかが２機ではないか！ それよりも波動砲の阻止を急がねばならん。重爆撃機だけでも先に転送するのだ！」 ドメルは瞬間物質移送装置の準備を急いだ。展開中の雷撃機には十分な対空兵装は無く、護衛機も飛んでいない。対空火器を備えた戦闘空母並びに防空戦艦群は艦隊の遥か後方に位置しており、コスモゼロの迎撃には役立たない。 「ドメル司令、このままでは雷撃部隊が！」 「バカモノ、敵の狙いは瞬間物質移送装置だ。こいつがやられてしまえばヤマトの波動砲を封じる手だてはない。雷撃部隊などかまうな！」 ゲールを叱り付けるドメル。 「重爆撃機、配置完了！」 「よし、ワープ光線発射用意だ」 「なんだ、あの巨大な爆撃機は？」 ドメル旗艦を監視していた真田が叫んだ。 「巨大ナみさいるヲ搭載シテイマスネ」 アナライザーが応える。 「巨大なミサイル・・・だが、あのドリルのような形状はどういうことだ？」 真田は暫し首をひねっていたが、何かに感付いたように叫んだ。 「いかん！ あの爆撃機をあのままヤマトに向かわせては・・・」 コスモゼロのスロットルレバーを全開にして、真田は飛び出して行った。 ドメル旗艦から二条のワープ光線が放たれる。その交点にある重爆撃機は徐々にその姿を消して行く。 「イチかバチかだ。あそこに飛び込むぞ！」 真田機は瞬間物質移送装置の放つワープ光線の交点に飛び込み、その姿を消してしまった。 「真田さん！」 その出来事を見た加藤が叫んだ。 「クソ、あれを破壊すれば良いわけだな！」 加藤、鶴見の両機は周囲の雷撃部隊には目もくれず、瞬間物質移送装置に対艦ミサイルの全弾を叩き付けた。 爆煙に包まれるドメル旗艦。 「よし、引き上げるぞ！」 ２機のコスモゼロは戦果も確かめずにその場を後にし、ヤマトに向かって帰還の途についた。 「瞬間物質移送装置、大破！」 「敵機は帰還して行きます」 コスモゼロの攻撃はドメル旗艦そのものにはさしたる被害を与えなかったが、瞬間物質移送装置の破壊に見事成功していた。 「これで我々の手駒の一つが失われたわけだ。糞っ垂れめ！」 ドメルは瞬間物質移送装置のコントローラーを床に叩き付けた。 「雷撃部隊はどうなさいますか？ 第３空母への帰還を・・・」 「バカモノ、そのまま自力飛行でヤマトへの攻撃に向かわせろ！」 ドメルの命令で雷撃部隊はヤマトに向かって発進して行った。 「まだ我が方が不利になったわけではない。ハイデルンからの吉報を待とうではないか」 そう言ってドメルは重爆撃機の成功を待ちわびた。 |