======================================================================== |
（１１／１５） |
| ヤマト艦内では真田とアナライザーによるドリルミサイルの撤去作業が続いていた。ドリルの先端を切りとって内部に侵入した真田は解体の糸口がつかめないものかと、アナライザーを使って内部回路を調査した。 「う〜む。これは厄介なことになったぞ」 真田はうなった。 「この起爆装置はドリルの回転制御と連動している。ドリルの回転を止めたり、反転させたりしたら即座にドカンだ。かと言って、この大がかりな起爆装置を解体してる時間も・・・」 そう言って考え込む真田。その間にもドリルミサイルは着実に機関室向かって進んでいる。 「いや、待てよ・・・そうか。その手があったか！」 真田は何かひらめいたかのように叫んだ。 「アナライザー、ドリルミサイルの周囲とドリル部分の内部に小型爆弾をセットしろ。ただし、波動砲発射口の内壁を破壊したり、ミサイルを爆発させない程度に爆薬量は加減して置け」 真田はアナライザーに指示を与えると、第１艦橋の土方艦長に連絡をとった。 「艦長、波動砲の発射準備をお願いします」 「真田くん、ドリルミサイルの解体が完了したのかね？」 そう訊ねる土方に真田は意図を説明する。 「ミサイルの解体は不可能です。この上は波動砲でミサイルを排除します」 「そんなことをして大丈夫なのか？」 「ミサイル周囲に小型ミサイルをセットし、波動砲発射と同時に爆発させます。外装が剥がれ、波動砲発射口の内壁との摩擦が無くなったところを波動砲のエネルギーで吹き飛ばしてしまうわけです。あのミサイルはヤマトに激突した衝撃でも起爆しませんでした。多少の衝撃では起爆しないものと考えられます」 真田の発案を聞いた土方は許可を出した。 「よかろう。やってみよう」 ヤマトが起死回生の波動砲発射を試みようと準備を始めた頃、戦艦部隊はまもなくその射程距離内にヤマトを捉えようとしていた。 「戦艦部隊、ヤマトまで距離８０００。有効射程距離内到達まであと６００秒」 「いよいよヤマトの最後だ。武人の最後らしく華々しく散らせてやるのが、私のヤマトに対する礼儀だよ」 後方で戦況を監視するドメルは、そう言うと雑務兵に命じて杯を用意させた。 「偉大なる宇宙戦艦ヤマトとその乗組員達の健闘を讃えて乾杯しようではないか」 小マゼラン雲マルマン星系産の２０年ものの美酒を飲み干すドメル。万事が順調のように思えた。しかし、次の瞬間、彼は信じられない光景を見ることになったのである。 「敵編隊接近！」 それは機動部隊の至近距離に出現したブラックタイガー第２編隊であった。 「バカな！ この距離になるまで、どうして気付かなかったんだ？」 不意を突かれて狼狽え回るゲール。 「落ち着け。これっぽっちの戦力ではわが艦隊にとって敵ではない。全艦対空戦闘開始。各空母は出撃可能な迎撃機を直ちに発進させろ」 矢継ぎ早に指示を出すドメル。しかしながら、その対応は彼の意図通りには運べなかった。 第１空母の戦闘機部隊は二度の出撃で大半の機体を失っており、帰還した機体もパイロットが疲弊した上、再出撃のための整備が終わっていなかった。これは第３空母の雷撃部隊も同じである。辛うじて第２空母の急降下爆撃隊のみ再出撃の準備を整えて待機状態にあったのだが・・・それらの機体が発進する前に集中攻撃を受けたからたまらない。信管をセットした爆弾を装備した機体が飛行甲板上に並んでいたところを襲われたのである。艦載機は次々に誘爆を起こし、飛行甲板上はたちまち火の海となった。これで平常心を失った第２空母の航海士が舵取りを誤り、混乱と錯誤の中で第３空母に激突したのである。装甲の薄い三段空母にとってこれは致命傷で、２隻はたちまちにして爆沈してしまった。 「こ、これは・・・」 青ざめて唖然とするゲール。 「狼狽えるな！ まだ勝負が着いたわけではないぞ」 ドメルは狼狽える部下たちを叱責する。 「ゲール、旗艦を戦闘空母に移すぞ」 「戦闘空母に？」 「瞬間物質移送装置を失ったこのドメラーズ２世など、この期に及んではもはや戦闘の役にたたん。幸いにもハイデルンの戦闘空母は健在だ」 ドメルは円盤旗艦を戦闘空母に横付けするように命じた。しかしながら、第２空母を葬ったブラックタイガー隊が今度は円盤旗艦に殺到してきたのである。 「ええい、小賢しい敵機だ」 当然、対空砲でこれを撃退しようとするが、円盤旗艦の兵装はあまりにも貧弱であった。みるみる間に艦全体が傷ついていく。 「くそっ、旗艦の選定を誤ったな・・・」 思い通りに進まない状況に歯ぎしりするドメル。 「ドメル司令、本艦は長くは持ちません。いまのうちに緊急脱出艇にて戦闘空母に避難して下さい」 「悔しいが、それも仕方あるまい。総員退艦だ。これより本艦を破棄して旗艦を戦闘空母に移す」 そう言うとドメルはゲール以下の幕僚たちを引き連れて艦橋を引き払い、脱出艇格納庫に向かった。 格納庫では２隻の脱出艇が発進準備を整えていた。１隻目にはすでに負傷者等が収容されていたが、ドメルたちはこちらに乗り込む。 「ゲール、おまえは乗らないのか？」 脱出艇のタラップの前で立ち止まったゲールを見て、ドメルは怪訝そうにきく。 「私は残りの兵士たちとともに後から追いますから、司令は先に行って下さい」 「そうか、好きにしろ」 これが二人が交わした最後の会話だった。まったく誰もが予期しなかった出来事がこの後に起こったのである。 ドメルを乗せた脱出艇はすぐに発進した。 しかし、この脱出艇は円盤旗艦を離れた直後、突然爆発を起こして四散してしまったのである。ブラックタイガーの攻撃だとか、円盤旗艦の爆発に巻き込まれたのだとか言われているが、その原因は明かではない。ただし、巷間に流れている俗説でもっとも有力なものは、バラン星以来ドメルに恨みを抱いていたゲールによる陰謀という説である。確かにゲールがこの時に限ってドメルと行動を共にしていないのは大いに疑念の種ではあるが、そのゲールもすでに亡き現在、真相は闇の彼方である。 ともかく、決戦半ばにして一方の将であるドメルが死んでしまったという事実は動かすことの出来ないものである。 「ドメル司令は名誉の戦死を遂げられた。これからの指揮は副官の私がとる」 戦闘空母に着いたゲールは、ドメルの死を知るとそう宣言した。 後方の本隊でそのような事態が起こっているとは露とも知らず、戦艦部隊は着実にヤマトとの距離を詰めていた。 「距離６０００。ヤマト、有効射程距離内に捕捉！」 「よし、全艦砲撃開始！ 攻撃しつつ散開し、ヤマトを包囲せよ」 キールミュレットの号令でガミラス艦隊からの砲撃が始まった。ただし、有効射程ぎりぎりの攻撃では命中精度は低い。しかし、それは徐々に距離を詰めることで補われることである。そして、ガミラス軍にとって虎の子のこの戦艦部隊の砲撃の威力は駆逐型デストロイヤー艦レベルではない。ドリルミサイルによって手も足も出ないヤマトの運命は、誰の目にも時間の問題と映った。 |