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第１章 「旅立ち」 |
（１／５） |
| 「恭子、恭子ったら･･････何をそんなにむくれてるの！？」 「そりゃ、むくれたくもなるわよ。３ヶ月前のヤマト乗組員の臨時募集には外れて、今度は第１志望の航空戦艦アスカへの配属にも落とされたのよ」 恭子と呼ばれた少女は膨れっ面を隠そうともせず、声を掛けて来た同期生に向かってそう答えた。 ここは極東宇宙戦士訓練学校。士官コースの所定の訓練カリキュラムを終えた生徒たちが、新たな配属先への辞令を手渡されてきたところだった。 「あなたは念願かなって、地上の有人機基地配属で良かったでしょうけどね」 「怒らないでよ、恭子。それに、ヤマトの時は恭子だって悪いのよ。格好つけて、古代艦長の前でアクロバット飛行見せたりするから･･････あの人、ああいう真似が一番嫌いだって、坂本教官も言ってたし･･････」 その言葉に恭子はきっとにらみ、言い返した。 「そうじゃないわ。あたしがヤマトに乗れなかったのは、あたしが女だからよ。あの古代って艦長、いまどき珍しい女性差別主義者だから。ヤマトだって自分の婚約者以外の女性乗組員を乗せようとしないのよ」 「わ、わかったわよ。そういうことにしておく。でも、恭子ってどうしてそんなにヤマトにこだわるわけ？ そりゃガミラス戦以来の功績艦だけど、設計が古い急造艦だから居住性は最悪だって言うし･･････今度、恭子が配属されるアリゾナの方がずっといいわよ。ゆくゆくは地球艦隊の旗艦を予定されてるっていうし」 同期生は納得いかないという顔つきで言った。 「当たり前でしょ。あたしは戦闘機パイロットよ。いくら地球艦隊の旗艦でも、航空部隊の無い戦艦に配属されたって嬉しくなんかないわ。それに･･････ヤマトはお父さんの艦よ。お父さんが地球を救った、思い出の艦だから」 「そうか･･････恭子のお父さんって、ヤマトの初代艦長でもあったのね」 ガミラスの遊星爆弾による攻撃の前に人類滅亡まで残り１年となった地球を、往復２９万６千光年のイスカンダルへの航海で救い出したヤマトの初代艦長こそ、彼女・恭子の父親、土方竜だった。 イスカンダルの旅から帰還した土方は、その１年後、地球艦隊司令長官として旗艦アンドロメダに乗り込み、白色彗星帝国の先鋒バルゼー艦隊を撃滅するも、強大な彗星帝国本体の前に敗れ、多くの艦隊乗組員たちと共に帰らぬ人となってしまった。 少女時代を地下都市で過ごした恭子は、防衛軍の要職にあってガミラスとの戦いに明け暮れていた父との思い出はほとんど無かった。ただ、ヤマトが帰還してからアンドロメダが就役するまでの約１年だけが僅かな家族としての記憶だった。 父の乗った最後の艦アンドロメダは、父と共に宇宙に散った。父が艦長を務めた艦として現存しているのはヤマトだけだったのだ。 「ま、一生ヤマトに乗れないって決まったわけじゃないし、運があったらいつかきっと恭子の希望がかなうわよ。それにしても、防衛軍の人事部も見る目が無いわね。極東の宇宙戦士訓練学校・航空士官コースで１番の腕前の恭子を、航空部隊じゃなく戦艦の乗組員に選んじゃうんだから」 「そうよ。このあたしを戦艦なんかの乗組員に選んだことを、きっと後悔させてあげるんだからね」 恭子はそう言って、固く心に誓った。 |