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第１章 「旅立ち」 |
（２／５） |
| 北米地区サンフランシスコ海上ドック。そこに恭子の配属された戦艦アリゾナがあった。 白色彗星帝国との戦いにおける地球艦隊の壊滅は、ガミラス戦からようやく復興なった地球にとっては大きすぎるダメージだった。艦艇そのものの消耗よりも艦隊乗組員の喪失に危機感を抱いた地球防衛軍は、人的被害を最小限に押さえるために無人艦隊を導入したが、その結果、暗黒星団帝国の奇襲の前に本土占領を許してしまう事態となり、戦後は再び有人艦隊が再建されることとなった。 しかし、暗黒星団帝国に本土占領を許してしまった傷跡は大きく、地球規模での艦隊再建にはなお時間が必要とされ、現在のところは各地区の自治政府の主導で、無人艦隊計画採用時に建造が中断されたまま残されていた計画艦を再利用して配備を進めているのが現状であった。その中には土方司令の要請で対白色彗星用に増産に掛かっていたアンドロメダ級の戦艦が何隻かあり、各自治政府はそれをベースに独自の設計変更を加えて新型戦艦を完成させた。北米自治政府の建造した最新鋭戦艦アリゾナも、そのアンドロメダ級から改造された１隻である。 この時期、各地で建造されたアンドロメダ級改造艦の中でも、比較的原型を留めていると言われるアリゾナであるが、それでも艦首部分に付いては大規模な変更が加えられている。中でも特徴的なのは、あのヤマト級を彷彿とさせる海上艦のバルバスバウを模したシルエットと、外見からは１門にしか見えないかつての主力戦艦の流れを汲む２連装拡散波動砲であろう。このアリゾナのデザインは、後にもっと簡略化されて地球艦隊に制式採用される戦艦や巡洋艦に引き継がれることになるのだが、それはまだ先の話である。 アリゾナという艦名は、北米自治政府のある国防族議員の出身地から名付けられたものだが、２０世紀の同名の海上艦のことを思い浮かべるものも多いだろう。米海軍のペンシルヴェニア級の２番艦として第１次大戦中に建造されたこの艦は、実戦に投入されること無く戦後を迎え、ワシントン条約体制の中、旧型艦として老朽化していった。１９４０年代になってアジアの覇権を目指す合衆国政府は、その障害となる日本を威嚇すべく、太平洋艦隊の基地をハワイの真珠湾に移した。米国主導の経済封鎖によってライフラインを絶たれた日本は開戦を余儀なくされ、１９４１年１２月８日未明、空母６隻からなる空前の機動艦隊によって真珠湾の太平洋艦隊を攻撃した。 この真珠湾攻撃によりアリゾナは多数の乗組員を乗せたまま沈没し、欺瞞に満ちた太平洋戦争と原爆投下を正当化するためだけに遺体は回収されることなく、アリゾナ記念館として後の時代まで残されたのだった。 しかしながら、ガミラスの遊星爆弾はそんな政治的な意図には関係無く、干上がった真珠湾の海底に現れたアリゾナの残骸をも、徹底的に破壊し尽くしてしまったのである。 極東地区宇宙戦士訓練学校士官コースの卒業式から３日後、土方恭子は辞令に従い、宇宙戦艦アリゾナに乗艦すべくやってきた。 「ふぅ〜ん、これが地球防衛軍の最新鋭戦艦か･･････」 恭子はドック内にそびえたつ艦橋を見て、何か威厳のようなものを感じた。それから艦容を見渡した。アンドロメダよりも若干大きい巨体は、狭い海上ドックのために、さらに巨大感を抱かせていた。まだ艤装が完了していないのか、艦体の各所に作業員の姿が見える。 ドック内の埠頭に降ろされたタラップから乗艦した恭子は、担当の係に連れられて艦長室を訪れた。普通コースを卒業して一般の艦隊乗組員に配属される場合は、配属先の担当士官に乗艦を報告して手続きを取ることになるが、士官コースの卒業生の場合は通常、配属された艦の艦長付きの士官候補生として３ヶ月から半年の見習い期間を終えた後、少尉任官とともに実務配属されることになっている。恭子の場合も辞令にはアリゾナ艦長付きの准尉修技生としての配属が記されている。 「極東宇宙戦士訓練学校航空士官コース卒業生・土方恭子。戦艦アリゾナ配属を命ぜられました」 胸に手を当てる地球防衛軍方式の敬礼をしながら、恭子はアリゾナ艦長に乗艦を報告した。アリゾナの艦長はウィリアムズ・ブラッドリー准将。ガミラス戦の当時から北米艦隊の指揮をとってきた歴戦の武人である。 ブラッドリー艦長は恭子の辞令を確認すると新たにもう１通の辞令を取り出して恭子に手渡した。 「君には寝耳に水の話だろうが、今日付けの辞令だ」 「土方恭子少尉、アリゾナ艦載機専任パイロットに配置する･･････少尉、私が？」 恭子は驚いて艦長の顔を見た。 「本来なら見習士官としての期間を充当するところだが、本艦は人手不足でな。実は急な出撃命令が本艦に下ったのだ。君も薄々は知っていると思うが、本艦は地球艦隊の旗艦となるべく建造された艦だ。連邦政府による進水式のセレモニーを経てテスト航海を終えた後、艦隊旗艦として必要な乗組員を充足する計画にはなっていたのだが、急な出撃命令で乗組員を十分に揃えることはできない。特に艦載機パイロットの人材は欠くことができない。そこで君にもすぐに実務を担当してもらうことになったのだ。君の訓練学校での成績はよく聞き及んでいる。必ず十分に実務をこなしてくれるものと期待しているよ」 こうして、恭子はアリゾナに乗り込んで僅か数分で准尉から少尉に昇進したわけであるが、もちろん、これは非常時の特例である。 「それから君に紹介しておこう」 艦長はそういって傍らに控えていた金髪の少女を招き寄せた。 「パトリシア・ウィンチェスター准尉修技生だ。北西ヨーロッパの訓練学校の出身で、居住区は君と同室になる」 「ウィンチェスター修技生です。少尉、よろしくお願いします」 少女はそう言って恭子にお辞儀をした。 「あ･･････こ、こちらこそ、よろしく」 恭子は少尉と呼ばれたことに少し戸惑ってしまった。 「ウィンチェスター准尉修技生、土方少尉に艦内を案内してあげなさい」 「はい」 こうして恭子は艦長室を辞し、アリゾナ艦内を案内されることになった。 |