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第２章 「初任務」 |
（１／５） |
| アリゾナが地球を出発して、早くも５０日が過ぎた。その間、アリゾナ率いる北米地区惑星探査船団は７つの惑星を調査したが、いずれも人類の移住に適するものではなかった。 銀河系中心方向にまっすぐ向かったために、その航路がガルマン帝国東部方面軍の先鋭ダゴン将軍率いる第18機甲師団の進軍方向と鉢合わせしたヤマトと違い、アリゾナはこれまでのところ、ガルマン帝国やボラー連邦の艦隊と戦火を交える事態には至っていない。しかし、先日、地球防衛軍本部よりもたらされたボラー連邦とヤマトとの交戦の情報は、船団により一層の緊張感を与えていた。 そして、今、船団は８つめの探査惑星のある目標星域にワープアウトした。 「全艦ワープアウト完了。オートチェック正常、損傷の出た艦はありません」 「うむ」 船団状況のモニター担当オペレーターの報告にブラッドリー艦長は頷いた。 「周囲の状況はどうだ？」 「左舷前方、１７万宇宙キロに未確認艦隊発見！ 艦数多数」 索敵レーダー担当のオペレーターが慌てて声をあげた。 「ビデオパネルチェンジ。最大望遠で状況を映せ」 艦橋の天井スクリーンに艦隊の光景が映し出された。 「どうやら他の艦隊と交戦中のようですね」 当直の先任参謀が言った。 「手前の艦隊の艦籍が判明しました。ガルマン帝国の艦隊です」 アリゾナのメインコンピューターはヤマトの交戦記録にあるガルマン帝国艦隊のいくつかの艦種を検索していた。 「交戦相手の艦隊はわからんのか？」 「ここからでは距離が遠すぎて判別できません」 索敵レーダーオペレーターはそう答えた。 「艦長、幸いに前方のガルマン艦隊は、我が船団には気付いていないようです。このまま安全な場所まで退避しましょう」 先任参謀はそう進言した。 「あれだけの大艦隊に襲われたら、我が船団はひとたまりもありません」 「だが、我々の目標の惑星は、あの艦隊の行く手にあるのだぞ」 ブラッドリー艦長は先任参謀にそう言った。 「ガルマン帝国の艦隊には強力な惑星破壊ミサイルが配備されている。もし、この戦いでそれが使用され、我々の探査目標が破壊されてしまえば取り返しのつかないことになりはしないかね？」 「しかし、それは可能性の問題です。目標の惑星はまだ地球人類が移住可能だと判明したわけではありません。仮に移住に適した環境だとしても、先住民のいた場合は移住対象から外れます。ガルマン艦隊が惑星方向に向かっているということは、彼らの交戦相手がその惑星に存在しているという可能性が高いでしょう。とても危険を冒してまでこだわる価値があるとは･･････」 先任参謀は船団の置かれた危機の回避を主張したが、ブラッドリー艦長は静かに言った。 「我々の任務には、地球人類の明日の生命が懸かっているのだ。人類の移住可能な惑星はこの銀河系全体でもそう多くはないのではないかと私は考える。だから、少しでも可能性があるなら、それを無為に見逃すことはできない。危険を冒す価値があるかどうかは、調査してみないとわからないのではないかね」 「しかし、調査しようにも、この状況では調査船を近付けるわけには･･････」 先任参謀にはブラッドリー艦長の考えが無謀に思えた。 「何も本格的な調査をするわけではない。そのための予備調査だ。偵察機の用意をしろ。艦隊を迂回しつつ惑星に接近させ、無人調査ポッドを打ち込ませるのだ」 ブラッドリー艦長の指示はすぐさまパイロットルームに伝えられた。この時の当直だった恭子にとっては初めての任務出撃だった。さすがに緊張で全身が震えてくるのを抑えながら、恭子はフライト内容をチェックした。 スクランブル発進でもない限り、詳細なフライトデータはパイロット搭乗前に機体のオートナビゲーションシステムにローディングされるが、予定外の事態が起こった場合にはパイロットの判断がすべてになるため、フライトの概要は頭に入れておかなければならない。 「無人調査ポッドを搭載した護衛空母アーカンソー搭載のコスモタイガー２機を率いて、ガルマン艦隊およびその交戦空域を迂回し、探査目標惑星ＰＸ−８６Ｍ上空に接近し、探査ポッド投下のナビゲーションを行う。なお、ガルマン艦隊またはその交戦相手に発見された場合、あるいは目標惑星に知的生命体の棲息が明らかな場合は直ちに任務を中断し、帰投せよ･･････か」 恭子は出撃時はパイロットに携帯が義務付けられているフライト指示プレートにダウンロードされた任務指令をつぶやくように復唱した。 「敵に遭遇したときは逃げろということだ。どうしても逃げ切れないとき以外は、間違っても戦おうとはするなよ」 当直明けで予備待機中のマクラーレン大尉が言った。 「おまえさん一人なら加減のし具合も心配ないだろうが、随伴機のパイロットの運命もおまえさんの判断に懸かっているってことを忘れるな」 「わかってますよ、大尉」 先輩パイロットの忠告を飲み込みながら、恭子は身支度を整えて艦載機格納庫に向かった。 |