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第５章 「別れ」 |
（１／６） |
| アリゾナが単独の惑星探査活動に入って２週間が経過した。この間、アリゾナは３つの惑星を探査したものの、依然として人類の移住可能な惑星は発見できていなかった。しかも、ボラー連邦の妨害は日毎に激しくなり、艦内には連日、負傷者の山が築かれていた。 「艦長、地球防衛軍司令本部より緊急暗号電文です」 通信オペレーターはそう言って、艦長席のコンソールに電文メッセージを転送した。 「航空戦艦アスカとの接触を指定してきたか･･････それにしても急だな」 電文には２４時間後の接触の指示と、接触ポイントの座標をしてきていた。 アジア太平洋地区の第２探査船団を率いていた航空戦艦アスカは、銀河中心方向の射手座・白鳥座方面を、先行するヤマトの探査計画からもれた惑星を中心に探査を続けていた。すでに船団の他の艦は失われ、アリゾナ同様、単艦での探査中である。 「ボラー連邦の妨害に対する対応策の協議だろうが、このところ特に執拗になって来ているからな」 それは、惑星ファンタムでヤマトが保護したシャルバート星のルダ王女の引渡しに応じないことに対する地球連邦政府への嫌がらせであったのだが、ルダ王女の存在は特に機密事項とされていたので、ブラッドリー艦長はその事実を知らなかった。 この時期のヤマトの行動については、そのかなりの部分が軍事機密に指定され、地球防衛軍上層部の一握りにしか知らされていなかったのだが、そのもっともたるものは、バース星でのボラー連邦との交戦の経緯であろう。当時、一般に公表された情報ではボラー連邦側の誤解による不幸な攻撃とされていたのだが、後にボラー連邦側から事実関係が公表されると地球の世論は騒然となった。ただし、それはまだ未来の話である。 その時、突然、アリゾナのレーダーは接近してくる大規模な艦隊を捉えた。 「前方、２０万宇宙キロにボラー艦隊発見！ 艦艇数推定１００、大艦隊です！」 「全艦、第１級戦闘配備･･････」 アティク星系の戦闘で負傷したシン副長の代わりに戦闘指揮を担当している先任参謀がそう言い掛けようとしたが、ブラッドリー艦長はそれを押しとどめた。 「敵との距離はまだ十分にある。どうせ戦って勝ち目のある敵でもあるまい。至急ワープ準備を整え、この空域から撤退する！」 艦長の指示にワープ準備に掛かる航海長。 「敵艦隊の射程距離内まで、あと５分」 「ワープ準備はまだか？」 「ワープ航路の計測に時間が掛かります。１０分待ってください！」 焦りながら答える航海長だったが、そんな悠長にしていられる状況ではない。 「かまわん！ どこでもいい、適当にワープしろ！」 ブラッドリー艦長は怒鳴った。 ヤマトがイスカンダルへの航海で搭載していた初期型のワープ航法装置は、亜空間突入後の航路修正が出来ないために、事前の航路設定を誤るとワープ自体が失敗してしまい、宇宙規模での破壊現象が生じてしまう危険性があった。しかしながら、その後の亜空間科学技術の進歩により、現在のワープ装置には亜空間内での自動航路修正機能が組み込まれ、ワープそのものの失敗は回避できるようになっている。 もちろん、ワープアウト地点までは面倒見てくれないので、どこにワープアウトするかはわからないが、例え銀河空間とはいえ、隙間に満ちているこの大宇宙では、危険に遭遇する確率は地球上での交通事故よりも遥かに低いはずである。 「波動エンジン内圧力上昇、１２０パーセント！」 「ワープ準備完了！」 艦長は頷いた。 「敵艦隊の射程距離内まで、あと１分」 「ワープ１０秒前、各自ベルト着用！」 「９･･････８･･････７･･････６･･････５･･････４･･････３･･････２･･････１」 「ワープ！」 メインエンジンの噴射を一気に解放し、亜空間突入速度に達したアリゾナは、スターボウを潜り抜け、恒星の軌跡が流星のように流れるワープ空間を駆け抜けていく。 やがて、アリゾナは別の空域に姿を現した。 「ワープ終了」 「どうやら逃げ切れたな」 一同はホッと胸をなでおろした。 「至急、現在位置の座標を確認しろ」 航海長は航路測定ルームにいる測定班に指示を出した。 「本艦右舷後方に惑星確認」 レーダー担当のオペレーターが報告する。 「パネルに映せ」 艦橋の天井スクリーンに惑星の姿が映し出された。 「こ、これは･･････」 「地球だ」 それは地球そっくりに青々と輝く、美しい惑星だった。 「艦長、この惑星を調査しましょう」 先任参謀がそう言うと艦長は同意した。 「我々の航路観測から洩れていた惑星だが、これは拾い物だったな」 艦長の命令により、ただちに探査衛星が射出され、数機の無人探査ポッドが大気圏内に投下された。 「大気組成の測定結果。窒素７９パーセント、酸素１７パーセント、二酸化炭素３パーセント･･････ほぼ地球と同様です。地上の平均大気圧は９６０ヘクトパスカル。赤道付近の気温、摂氏３２度。中緯度地方で摂氏２０度前後･･････」 「水陸比８対２。地上には植物の繁殖が認められますが、知的生命体の存在は確認されません」 探査機器が即座に送ってきたデータを元に、本格的な探査を続行するかどうかの検討に入る。 「現在のところ、観測データの示す結果は、この惑星が地球に極めて似ていて、人類の移住にもっとも適した存在だということです」 先任参謀はそう言って、探査の続行を当然のように主張した。 「誰も異存はあるまい。以後、この惑星をシオンと命名し、人類の移住にとって支障は無いかどうか、引き続き詳細な調査を続行することにしよう」 艦長はそう言うと、一同の顔を見回した。 「祝杯を上げるにはまだ早いが、なに、十分に期待の持てる星だろう。これまでの諸君の苦労に一言、礼を言いたい。ありがとう」 「おめでとうございます、艦長」 第１艦橋の中は喜びに沸き立った。 「これで、人類は救われる･･････」 「ボラーから逃げた先に我々の希望があったとは、まさに怪我の功名ですね」 「今度ばかりはボラーに礼を言わなくてはいかんなぁ。ははは･･････」 しかし、その時だった。 「惑星シオンの向こう側にワープアウト反応！ ボラーの大艦隊です！」 「まさか、追撃してきたのか？」 愕然とする一同だったが、艦長は落ち着いていった。 「航海長、ワープ準備だ」 「しかし、また追撃してくる可能性があります。ここなら拡散波動砲で先制すれば、勝利の可能性は十分です。艦長、波動砲を使いましょう！」 先任参謀は強く主張した。 「馬鹿者！ この惑星を戦場にするわけにはいかん！ 敵には惑星破壊ミサイルがあるのだ。君はここまでの我々の苦労を、人類の希望を無にしてもかまわんのかね」 艦長はそう言うと、ワープ準備の続行を命じる。 「敵艦隊、距離１万２０００宇宙キロ」 惑星シオンの陰から姿を見せたボラー艦隊はアリゾナを有効射程距離内に捉えると、一斉に主砲を撃ってきた。長距離攻撃なので命中弾は皆無に近いとは言え、たちまち２、３発がアリゾナの艦体を揺らす。 「ワープ準備、完了！」 「ワープ！」 カウントダウンも省略し、アリゾナは急いでワープに入っていった。 再び別の空域にワープアウトしたアリゾナだったが、その平穏は長くは続かなかった。 「本艦の左舷後方にワープアウト反応！」 「またか！」 アリゾナの後方の近距離に出現したボラー連邦の大艦隊は、すでに戦闘準備を終えていたのか、即座に砲撃を開始してくる。 「ええいっ、連続ワープだ！ 小ワープを連続して、敵のワープルートの追跡を撹乱する」 ワープ準備を整え、連続ワープに突入するアリゾナ。しかし、その間に受けた砲撃により、艦体は確実に傷付きつつあった。 「連続ワープ終了」 「これでやつらも追って来れまい･･････」 ブラッドリー艦長がそう言って一息つこうとした時だった。 「本艦前方、および後方にワープアウト反応！」 「しまった、挟まれたか！」 アリゾナはワープアウトしてきたボラー艦隊に前後を挟まれてしまった。 「敵からの交信です」 天井スクリーンには傲慢な顔付きのボラー軍人の姿が映った。 「ボラー連邦第１主力艦隊総司令、バルコムだ。貴艦には我が艦隊の実弾演習にお付き合いいただいたことを感謝する。ずいぶんちょこまかと逃げ回っていたようだが、もはや退路もあるまい。無駄とは思うが、貴艦の一層の存分な健闘を期待しよう。わはは･･････」 バルコム提督は一方的にそう言うと、交信を切った。 |