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第１章 「奇襲！アルファ星補給基地」 |
（１／５） |
| 「寂れた街ね」 近付いてくる街並みを眺めながら恭子は言った。 「これでも、かつてはこの星で一番開けた街だったはずよ。地球艦隊の前線基地が撤退するまではね･･････」 恭子と並んでコスモバイクを飛ばす、もう一人のドライバーが言った。 「今ではたまに民間の交易船が立ち寄る以外は、ボラー艦隊の末端の補給基地があるだけか･･････そりゃ、寂れもするわよね」 そう言って納得する恭子だったが、その目は街の郊外にあるボラー艦隊の補給基地に向いていた。 「で、あれがその補給基地ね」 「補給基地って言っても、ボラーの主要航路から外れた、ほとんど名前だけの基地だからたいした設備じゃないわよ。もっとも、旧地球防衛軍の前線基地を接収して使ってるから、外見だけは立派だけどね」 ２台のコスモバイクは並んで街の中に入っていった。 ケイローン・シティ･･････このケンタウルス座アルファ星第４惑星に作られた地球人類最初の太陽系外での植民都市であった。荒涼とした自然環境ではあったが、太陽系内の惑星と比べると低コストで生存環境が維持できるため、前線基地勤務の地球防衛軍将兵の家族や、フロンティア気分を味わおうとする宇宙移民者たちによって、それなりに暮らしやすい街が築かれていった。 しかし、１年前のガルマン帝国東部方面軍ダゴン艦隊の攻撃によって安全性が脅かされて以来、民間人の居住者は減少の一途をたどり、２か月前に地球政府がボラー連邦に降伏し、地球防衛軍が解散され前線基地がボラー軍に接収されると、辛うじて残っていた基地関係者の家族たちも去っていった。今やこの街には民間の交易船やボラー艦隊の乗組員相手に細々と商売を営む、僅かな人間しか残っていなかった。 「マスター、ケンタウルス・ランチ、２人前お願いね」 恭子たちは表通りで辛うじて開いているラウンジに駆け込むと、真っ先に目に付いたメニューを注文した。 「お嬢さんたち、船の乗組員には見えないけど、観光旅行か何かかい？」 マスターは見慣れない客に驚いたようにそう尋ねながら、お冷やを差し出した。 「まあ、ショッピングに来るような星じゃないわね」 恭子は、お冷やを一気に飲み干す。この星の乾いた気候は簡易宇宙服を着ていても体内水分を奪っていくのだ。 「でも、水がこんなにおいしいなんて、思ってもみなかったわ」 相棒もお冷やを飲み干した。 「この星に観光船なんて来ないから、お嬢さんたちは交易船に乗せてもらって来たんだと思うけど、この星の近辺には宇宙海賊が出没するっていうから、気を付けなよ。何でも、旧地球防衛軍の軍艦を使ってるって話だから、物騒な話さ」 マスターは料理をしながら、二人にそう話した。 「へぇ。宇宙海賊かぁ」 恭子はお冷やのおかわりで、なぜか咽ながらそう答えた。 「それはそうと、基地の方が騒がしかったけど、何かあるの？」 相棒が話題を変えようと、そう訊ねた。 「あれ？ お嬢さんたちもヤマトが目当てで来たんじゃないのか？」 マスターは意外そうに訊き返した。 「ヤマトって、イスカンダルに行った、あのヤマト？」 「そうだよ。そのヤマトさ」 マスターはそう言って続けた。 「地球が降伏したときに戦利品として没収されたヤマトが、いよいよボラー軍の標的艦として接収されて行くんだ。で、その途中でこの星に立ち寄っていくってんで、一目見ようという観光客がけっこういるよ。何せ、これまで人目の届かない場所に隠されてたからね」 「そうか、ヤマトか。私たちもヤマトを見に行こうかしら･･････ね、春香」 恭子は少し笑いながら、相棒に向かってそう言った。 「でも、そんなにギャラリーがいるんじゃ、危険なんじゃない？ 噂の宇宙海賊が襲って来たりしたら」 ２人は顔を見合わせて笑った。 |
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同じ頃、ボラー連邦の駆逐艦数隻に伴われたヤマトは、アルファ星第４惑星への着陸準備に掛かっていた。 「メインエンジン、出力２０パーセントダウン。これより着陸態勢に入ります」 メインパイロット席でヤマトの操縦桿を握るのは北野哲。かつて宇宙戦士訓練学校の卒業訓練航海時に、暴走したイスカンダルへの救難に参加した乗組員だったが、その後はヤマトからは遠ざかっていた人材である。 ヤマトを接収したボラー連邦進駐軍は、旧乗組員によるヤマト奪取を恐れて、今回のヤマトの搬送に関しては、極力ヤマトとは無関係なメンバーによって行う予定であった。しかしながら、ガミラス戦当時の旧式の設計艦に、急ごしらえの波動エンジンを取りつけたヤマトは、それ以降の規格で作られた艦とは違い、操艦には独自の技術を要する面倒な艦であった。したがって、今回の搬送航海においても航海班と機関部の要所には経験者の配置が必要であった。 とは言え、かつてのメインスタッフの起用は警戒したボラー側は、それに準ずる責任者として航海班に北野、そして機関部の責任者には徳川太助を配置していた。そして、彼らの配下でヤマトの運行に携わるメンバーの中にも旧ヤマト乗組員は少なからずいた。 「徳川さん、ヤマトを本当に標的艦なんかにさせてしまって良いんですか？」 機関室で波動エンジンの操作に携わっている太助に、元宇宙のトラック野郎を自称する赤城大六が言った。 「そんなこと、良いわけないだろ！ でも、今のオレたちにはどうすることも出来ないんだ･･････」 太助は悔しそうな表情で言い返す。 「オレたちでヤマトを乗っ取っちゃいましょうよ。幸い、艦内のボラー兵の数は知れています。機関部と航海班の全員で決起すれば･･････」 「バカっ！ ヤマトを乗っ取っても、ヤマトの周囲にはボラーの艦隊が警護しているんだ。戦闘班のいないヤマトはすぐに撃沈されてしまうぞ。それに、地球で監禁されてる山崎機関長や島副長たちにも迷惑がかかるんだ。今は歯を食いしばって耐えることしかオレたちには出来ないんだ」 太助は無念そうな表情でそう言いながら、赤城を宥めた。 そして、ヤマトは第４惑星のボラー軍補給基地に降りていった。基地の周辺にはヤマトの最後の見送りをしようという観光客たちが詰め掛けていたが、当然のことながら基地施設への立ち入りは許されず、観光客たちは遠くから降下してくるヤマトの姿を見ることしか出来なかった。その中には土方恭子と鳥見春香の姿もあったが、彼女たちの目的を知る者はいなかった。 |