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第１章 「旅立ち」 |
（３／５） |
| 「任官いきなり少尉昇進ってすごいですわ」 勤務時間帯を終え、居住区に割り当てられた部屋に戻ったパトリシアは、同室となった恭子にそう言った。 「バカね。実力で昇進したわけじゃないのよ。人数合わせのための非常時特例じゃ嬉しくも何ともないわよ」 「でも、少尉の成績がもともと素晴らしかったから、艦長もすぐに実務配属できたのですわ」 同僚の軍人というより、まるでどこぞのお嬢さんかというようなパトリシアの口調に、恭子は気味悪さを感じた。 「お願いだから、プライベートの場で少尉と呼ぶのはやめて。同期には違いないんだし、あたしのことは恭子でいいわ。代わりにあなたのことも名前で呼ばせてもらうから」 恭子がそう言うと、パトリシアは目を輝かせて答えた。 「はい。パットでもパティでも、お好きな呼び方で呼んでくださいな」 「あなた自身はどちらで呼ばれたいわけ？」 「私自身は、名前は省略されずに呼ばれる方が･･････」 「じゃあ、パトリシアでいいわね」 恭子は半ば強引に呼び方を決めた。 「で、艦長付きの修技生ってよくわからないけど、パトリシアの専攻は何だったの？」 「艦隊士官コースで、超光速亜空間航法をやってましたの」 「つまり、宇宙航海士候補ってわけね」 恭子はパトリシアの様子を眺めながら、納得した。会話に見られるおっとりとした口調で戦闘系のカリキュラムをこなしてきたとはとても思えなかったからだ。 「そう言う少尉･･････じゃなくて、恭子さんはどうしてパイロットになられたのですか？ 確か、お父様は地球連邦艦隊司令の･･････」 「艦隊士官の道より、パイロットの方が性に合っていたから･･････というのは嘘ね。本当は比べられるのが嫌だったからよ。父はもちろん、ガミラス戦で戦死した兄さんたちも、あたしなんかよりずっと優秀だったわ。小さい頃から何かと比較され続けてきたら、同じ道を進もうなんて思わないわよ」 「でも、同じ軍人にはなったんですね」 「それは･･････」 父のそばにいたかったからだと言いかけて、恭子は口をつぐんだ。地球防衛軍に入れば、父のそばに近づけるかも･･････その当時は漠然とそう考えて、宇宙戦士訓練学校の門をくぐった。２年前のことである。しかし、１年２ヶ月前の彗星帝国との戦いで父は戦死した。１年前、宇宙戦士訓練学校の普通科カリキュラムを終えた恭子は、当初の目的を失っていた。 「あの頃は、イスカンダルまで行って地球を救ったヤマトの活躍に、誰もが憧れていたからね」 恭子はとっさにそう答えなおしたが、それもあながち嘘ではない。この後の地球の歴史を振り返ってみても、ガミラス戦末期の徴兵制度を抜きにすれば、この時期ほど地球防衛軍への志願者が多かったことはない。それが白色彗星帝国戦時の地球艦隊を築き上げた原動力でもあったのだ。 |