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第３章 「出会い」 |
（２／５） |
| パトリシアに予備のパイロットスーツを着せると、恭子は艦載機格納庫へ連れていった。すでに自動操作で発艦レーンに載せられたコスモファルコン３号機は、パイロット搭乗位置で２人を待っていた。 「ナビゲーター席ったって補助席みたいなものだから、乗り心地は期待しないで」 恭子はそう言って、パトリシアに搭乗を促した。 コスモゼロの後継機であるコスモファルコンには当初から固定式のナビゲーター席が設置されているが、補助搭乗員用の席として臨時の利用しか想定されていないことに変わりはなく、パイロット席に比べると居住性が劣っているのは事実である。もっとも、戦闘機としての急激な加減速飛行を考えれば、パイロット席にしたって必ずしも乗り心地の良い席とは言えないのだが。 パトリシアの着座を確認してから恭子はパイロット席に腰掛け、搭乗ハッチを兼用しているコックピットのキャノピーを閉じ、エアロックをＯＮした。それと同時にパイロットスーツの与圧機能が作動し、下半身に圧迫感を感じる。 「足が締め付けられて、痛いですわ」 「脳が酸欠になりたくないなら我慢するのね」 泣き言を言うパトリシアに、恭子は冷たく言い放った。 パイロットの搭乗を終えたコスモファルコンは発艦レーンを進み、エレベーター上で止まった。同時にエレベーターは上昇を始め、機体はカタパルトデッキに設置される。 「ブルーハワイからワイキキビーチへ。左舷カタパルト接舷完了。これより発艦します」 恭子はブリッジの管制に発艦の最終確認を行った。ブルーハワイは恭子の乗るコスモファルコン３号機、ワイキキビーチはアリゾナのブリッジ管制のそれぞれ通信用コードネームである。ちなみにアリゾナの他の２人のパイロットの機体のコードネームはソルティドッグとジンライム、そして予備機用にカシスオレンジが付けられている。 「こちらワイキキビーチ。ブルーハワイ、ちょっと待って」 マクレガー中尉の声が恭子の発艦作業を止めた。 「緊急任務よ。これからワープアウトしてくる味方艦との打ち合わせに、艦長が連絡艇で出るわ。以後、連絡艇のコードネームをパールハーバーと呼称し、ブルーハワイにはその護衛を命じます」 「了解。ブルーハワイはパールハーバーの護衛任務に就きます」 恭子はブリッジに復唱を返した。 「ワイキキビーチよりブルーハワイへ。パールハーバーが発艦しました。ブルーハワイは直ちに発艦し、以後はパールハーバーの指示に従って下さい」 「了解。ブルーハワイ、発艦します」 恭子はコスモファルコンのスロットルを吹かし、エンジン出力を十分に高めたところで発進レバーを操作した。コックピットの操作は直ちにカタパルトコントローラーに伝えられ、機体は急加速してデッキから押し出された。 「パトリシア、大丈夫？」 発艦後の機体の安定を確保すると、恭子は後ろのナビゲーター席のパトリシアに声を掛けた。カタパルト発進は慣れたベテランパイロットでも緊張を強いられる儀式である。ましてやパイロット訓練も積んでいない素人には、少しばかり負担が重過ぎるように思えた。 「死ぬかと思いましたわ」 かなりくたびれたかのような声でパトリシアは返事をした。 「いつも、こんな発進をしてますの？」 「普段はこの倍のＧがかかるわ。今日はあなたがいるから抑えたのよ」 実際、一瞬の加速の遅れが命取りとなる宇宙空間での戦闘機戦、とくにスクランブル発進の場合などは、極限までの急加速発進が要求される。パイロットは日頃からそれに耐える訓練を受けなければならない。 まもなくコスモファルコンは先に発艦した連絡艇に追い付いた。 「パールハーバーよりブルーハワイへ。護衛任務、ご苦労様です」 連絡艇の通信員が確認の通信を送ってくる。 「それにしても、どこに行くのでしょうか？ 船団の味方艦からは遠ざかる一方ですけど」 レーダーパネルを覗きながら、パトリシアは言った。 「ワープアウトしてくるって言ってたでしょ。私たちの船団とは別の、極秘任務を帯びた艦なのよ、きっと」 恭子はそう答えると、続けて言った。 「それにしても、ねぇ。艦長がよくもあなたをコスモファルコンに乗せさせようなんて考えたもんだわね。訓練でナビゲーター席に座るぐらいだから問題無いけど、もし実戦なんかに巻き込まれたら、あなたのおっとりとした性格じゃ、命は無いわよ」 「そうでしょうか？」 まるで他人事みたいにパトリシアの反応に、恭子は頭を抱えたくなった。 やがて連絡艇の進行方向に巨大な艦影が忽然と出現した。 「あれは？」 艦の大きさ、シルエットともにアリゾナと酷似していた。ただ、その前方甲板には巨大な飛行甲板が設けられ、その代わりにやや小振りの砲塔が舷側に設置されていた。 「パールハーバーよりブルーハワイへ。これより航空戦艦アスカに着艦する。着艦に当たってはアスカの管制官の指示に従うように」 「航空戦艦アスカ･･････あれが？」 恭子はその艦影を興味深く眺めた。 改アンドロメダ級の戦艦、アリゾナの同型艦として建造されていたアスカは、対暗黒星団帝国戦後の航空機動兵力の不足を補うために航空戦艦として設計変更されたという経緯を持つ。アリゾナと前後して完成したアスカは、アジア太平洋地区担当の惑星探査第２船団の旗艦として出航したはずだったが･･････ 「それにしても、痛々しいわね」 アスカの艦体のあちこちには戦闘によると思われる損傷が見受けられた。 「相手はガルマン帝国？ それともボラー連邦？」 アジア太平洋地区担当の空域を離れたこんな場所にアスカがいること自体、かなりの異常である。よほどの事態があったに違いないと恭子は直感した。 |