======================================================================== |
第５章 「別れ」 |
（３／６） |
| 「しばらくはボラー艦隊も追っては来れまい。航海長、今のうちに次のワープの航路計算をしておいてくれ。ワープ目標地点はアスカとの会合地点より銀河座標東へ３０万宇宙キロの地点だ」 「会合地点より東へ３０万宇宙キロ？」 「そうだ。アスカを我々の道連れにするわけにはいかないからな」 疑問を返す航海長に、ブラッドリー艦長はそう答えた。 「それから、生活班に伝達だ。艦内全部署に戦闘食を支給させろ。腹が減っては戦はできんからな」 艦長の指示をデーズィが厨房に伝えた。 「工作班は艦内被弾個所の応急処置を急いでくれ」 技師長にそう言うと、艦長は再びデーズィに向かって口を開いた。 「ウィンチェスター修技生を至急、こちらに呼び出してくれ」 （パトリシア？･･････何だろう？） 恭子はその名前に反応し、その用件が気になった。 間もなく、司令塔下部の士官室で待機していたパトリシアが現れた。 「ウィンチェスター准尉修技生、参りました」 艦長の前で敬礼するパトリシア。 「君に特別任務がある。次回のワープで本艦は航空戦艦アスカとの会合地点近辺の空間に出る。君はここに用意した惑星シオンのデータを持って、アスカに避難したまえ」 「敵を前にして、私だけ逃げろとおっしゃるのですか？」 「これは艦長命令だ」 「しかし･･････」 納得できないという表情を見せるパトリシア。 「命令に従えないというのなら･･････」 艦長の言葉が一瞬詰まった。何事が起こるのかと恭子はびくびくしながら眺めていたが、ブラッドリー艦長は席を立つと、艦長帽を脱ぎ、頭を下げた。 「これはお願いです、王女殿下」 （王女殿下？･･････いったい何のこと？） 「このデータには地球人類の未来が懸かっているのです。我々のこれまでの航海が無駄にならないためにも、このデータは地球に持ち帰って頂きたいのです」 艦長は急に丁寧な口調に変わり、パトリシアに言う。 「でも、それは私じゃなくても･･････」 「あなたの兄である２人の王子は、先日のイギリス船団の潰滅と運命を共にされました。現在、あなたがイギリス王家の第１王位継承者なのです。無事に生き延びて王位を継承なさるのが、国民に対するあなたの義務ではありませんか！」 そう言われると、パトリシアは反論できずに黙り込んだ。 その様子を見たブラッドリー艦長は、次にデーズィに向かって言った。 「砲術操作の出来る士官を一人、第１艦橋に手配してくれ。修技生でもかまわん」 そして、今度は恭子に向かって言った。 「土方少尉。君のコスモファルコンで王女をアスカへ送り届けてほしい」 「わ、私が？」 恭子は展開が飲み込めず、慌てて答えた。 「でも、当直のパイロットは他に･･････」 「パイロットが君の方が王女も安心するだろう。これは命令だ。命令拒否は監房入りだぞ」 艦長はそう言った。 （明かに態度が違うなぁ） 恭子は少し不公平に思ったが、それをおくびに出してる場合ではない。 「王女を送り届けたら、君はアスカ艦長の指示に従え。いいな」 艦長はアスカの艦長に宛てた１通の封書を恭子に手渡した。 「次回、ワープ終了と同時に発進できるよう、それまでに身支度を整え、発進準備を完了しておけ！」 艦長はそう言うと、２人に対して敬礼した。恭子とパトリシアも条件反射的に敬礼を返していた。 |