======================================================================== |
第５章 「別れ」 |
（５／６） |
| ボラー艦隊の攻撃を何とか耐え凌いだアリゾナは、無事にワープを行い、航空戦艦アスカとの会合予定空域の近傍に出現した。 「ワイキキビーチよりブルーハワイへ。本艦は予定通り、正常にワープを終了、予定空域に到達した。速やかに発艦を行い、任務を全うされたし」 「こちらブルーハワイ、了解」 恭子は管制からの指示に返答すると、発艦作業を続行した。カタパルトデッキに向かって動き出す艦載機エレベーター。 「フライトの無事を祈ってるわ、土方少尉」 スピーカー越しにデーズィの声が聞こえた。 「そちらも、ね･･････」 恭子はそう答えたが、それ以上は涙が込み上げてきて何も言えなかった。 やがて艦載機エレベーターは停止し、コスモファルコンはカタパルトに固定された。 「こちらブルーハワイ、発艦準備完了」 「ＯＫよ。すぐに発艦して。発艦後は無線封鎖を厳守。アスカに接近するまで、一切の交信は禁止よ」 「了解。これより発艦します」 恭子は発艦レバーを引いた。たちまちカタパルト射出によって、コスモファルコンは宇宙空間に放り出される。緊急発艦時より少し緩めに設定した加速度だったが、パトリシアがこれに耐えきれるかどうかは心配だった。しかし、悠長なことをして時間をロスするわけにもいかなかった。 「パトリシア、生きてる？」 「ええ、何とか」 返事を聞いて、まずはホッとした。 「恭子さん、アリゾナから発火信号です」 窓の外を眺めたパトリシアが言った。 「読んで」 「Ｇ、Ｏ、Ｏ、Ｄ、Ｌ、Ｕ、Ｃ、Ｋ･･････Good Luck」 無線封鎖によって交信できないアリゾナからの、それが恭子たちに向けた最後のメッセージだった。 ボラー艦隊に所在を知られないための無線封鎖だったが、沈黙の続く果てしない空間を飛行することは、恭子にとっても不安だった。 機体の現在位置と、飛行進路の手掛かりとなるのはコスモファルコンにインストールされた星間地図だけ。搭載してる燃料にも限りはある。アスカと遭遇できなければアリゾナに帰ることも出来ない。 しかし、恭子はくじけるわけにはいかない。恭子は父から聞いたイスカンダルへのヤマトの往復２９万６０００光年もの不撓の航海のことを思い出し、勇気を奮い立たせた。 （ヤマトはたどりつけるかどうかもわからない遥か彼方のイスカンダルを目指して、往復１年の航海を１隻だけで成し遂げたのよ。それに比べれば、あたしたちがアスカにたどりつくなんて、桁違いに確実性の高いことなんだから･･････） 幸いにもボラー艦隊とは接触することはなく、コスモファルコンは数時間の飛行の後、アスカとの予定会合ポイントに到達した。 レーダーに航空戦艦アスカの姿を見つけた恭子は、近距離通信の無線を開いた。 「こちら、宇宙戦艦アリゾナ航空隊、土方恭子少尉。航空戦艦アスカへの着艦を許可願います」 恭子がそう申告すると、すぐに返答が返って来た。 「こちら航空戦艦アスカ管制、エミー加納中尉。土方少尉の着艦を許可します。こちらからの誘導プログラムにしたがって着艦の操作を行ってください」 指示通りにアスカに着艦した恭子は、パトリシアとともにアスカの艦長室に通された。 「王女殿下、アリゾナでの任務、お疲れ様でした。本艦では賓客として扱わせていただきますので、ゆっくりとおくつろぎください」 パトリシアから惑星シオンのデータを手渡されたアスカの春日艦長は、丁寧な口調でそう言った。 いきなり特別待遇かい、と恭子は思った。 （軍艦の中でくつろぐも何もないだろうに･･････） パトリシアの用件が終わると、恭子はブラッドリー艦長から預かった封書を、春日艦長に渡した。それに目を通す春日艦長に、恭子は要望した。 「春日艦長、コスモファルコンへの燃料補給と発艦を許可してください」 「理由は？」 春日艦長は目を止めて、恭子に訊き返した。 「アリゾナに戻ります」 「それはできんよ」 春日艦長は言った。 「アリゾナはもうこの空域にはいない。本艦を生かすためにボラー艦隊の囮となってワープしていった」 そういうと、春日艦長は一辺の紙片を恭子に示した。 「ブラッドリー艦長からの辞令だ。読んでみたまえ」 「土方恭子少尉は本日付けで航空戦艦アスカへの転属を命ずる･･････」 恭子はその辞令を読んだ途端、急速に全身が脱力していくように感じた。 「そういうわけだ。まあ、君にはしばらく王女殿下の警護を担当してもらうことにするよ」 春日艦長はそう言って恭子にパトリシアの警護役を命じた。 （結局、あたしってパトリシアのお守り役なの･･････） 恭子は不服だった。せめてアスカの航空隊に参加してボラー連邦に一泡吹かせてやりたかったが、パトリシアの警護役じゃ戦闘機にも乗れない。 しかし、アリゾナからの長いフライトは、恭子からその気力を奪ってしまっていた。 |
------------------------------------------------------------------------ |
アリゾナとの予定会合ポイントでアリゾナとは出会えず、代わりに２人の乗組員を拾った航空戦艦アスカはその後すぐ、自分たちの本来の惑星探査任務に戻っていった。 彼女たちによってもたらされた惑星シオンのデータを元に地球の惑星移民計画本部が最後の調査船団を派遣したのもそれからしばらくのことだったが、船団は該当の空域にそのような惑星を発見することは出来ず、その帰路、ボラー艦隊の襲撃を受けて消息を絶ってしまった。 ボラー連邦第１主力艦隊バルコム提督の追撃を引っ張ってワープ空間に去っていった護衛戦艦アリゾナの無惨にも朽ち果てた残骸が、遠く離れたスカラゲック海峡星団ベータ星系で惑星探査中のヤマトに発見されたのは、この日から１ヶ月も後の出来事だった。 |
《おわり》 |