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第１章 「奇襲！アルファ星補給基地」 |
（４／５） |
| それほど大きくない町である。民間港を飛び立った２機は、たちまちボラー軍基地の上空に到達した。 「さて、問題です。時間は切迫してるのに、こちらの戦力は戦闘機２機だけ。この状況で最も効果的な手は何でしょうか？」 「とりあえずドッグ付近を破壊して、移送艦隊の発進の時間稼ぎをするってとこじゃないかしら」 「ピンポン！ その手で行きましょう。でも、くれぐれもヤマトには傷を付けないでね」 恭子はそう言って念を押した。 「了解、了解。そんなに心配しなくたって、誰もヤマトを沈めたりなんかしないわよ」 春香はそう答えると、コスモイーグルを艦艇ドック地区に向けて躍らせた。 ２機の戦闘機の突入は、ボラー基地にとって完全に意表を突かれた奇襲だった。全銀河に覇を唱えるボラー連邦にとっては、末端の補給基地に過ぎないこの基地にもそれなりの防衛施設はある。しかし、それは惑星外からやってくる敵に備えての迎撃システムが主力であり、いきなり航空機戦力による奇襲などというものは考慮されていないに等しい。それでも対空レーザー砲を始めとする防御兵器も当然ながら備わってるが、それらの兵装が機能し始めたときにはすでに侵入機は基地エリアの深くまで入り込んでいたのだ。 元々、守備兵力のそれほどいない補給基地は、たちまちパニック状態に陥った。その様子に業を煮やした移送艦隊司令部は、ただちに移送艦隊の緊急発進および個別の対空防御を命じた。 しかし、侵入機の放ったミサイル攻撃によって基地のドック施設の半数が破壊され、駆逐艦１隻はドック内で擱座し、２隻は発進不能の状態に陥った。しかしながら残る３隻は発進態勢を整えて浮上してくる。 「結局、足留めできたのは３隻だけか･･････」 ボラー軍の駆逐艦を眺めながら、春香はつぶやいた。 「援軍はまだなの？ 早くしないとヤマトが飛び立っちゃうわよ」 焦るように恭子は言う。 「いきなり予定が繰り上がったんだもん、こんなに早く来れるわけないわよ」 「じゃあ、あの駆逐艦もあたしたちが相手にしろってこと？」 ため息をついて訊き返す恭子に、春香は言う。 「ここでヤマトを諦めたくなければね」 一方、ヤマトでは突然の緊急発進命令に、ただでさえ人手の足りない艦内が、慌しくひっくり返っていた。 「徳川、メインエンジンの準備はまだ終わらないのか！」 メインパイロット席から機関室へ怒鳴りつける北野。 「そう怒鳴らなくてもいいだろ。ヤマトのエンジンはデリケートなんだ。いきなり発進しろって言われても、準備に時間は掛かるんだよ」 「基地が敵襲を受けているんだ。悠長なことは言ってられないんだぞ」 「そんなこと、わかってるよ！」 苛ついたように怒鳴り返してくる太助の声に、このまま機関部の不調を理由に発進を拒否してやろうかとも北野は考えた。しかし、この第１艦橋にもボラーの監視員が配置されており、ヤマト艦内全体では多数のボラー兵が乗り込んでいる。うかつなことが出来ないのも確かだ。 「敵襲って、相手は何者ですかね？」 通信士が北野に話し掛けた。彼はこの航海までヤマトとは無関係だった新人の乗組員である。 「このアルファ星周辺空域では、以前から宇宙海賊が出没していると聞いたことがある」 「宇宙海賊？」 聞き慣れない言葉に通信士は首を傾げた。 「地球防衛軍司令部のボラー連邦への投降命令を拒否して、軍艦ごと脱走していった連中だよ。当然、軍籍は剥奪、指名手配の連中だが、統一した組織があるわけでもなく、ボラー軍当局はあまり驚異とは思ってないらしい。宇宙海賊の掃討は地球政府の仕事だと言って、本腰を入れて退治しようとはしていないようだ」 北野がそう答えると、通信士は驚いたように言った。 「じゃあ、相手も地球人なんですね？」 「そういうことになるな。だが、相手は軍に反乱を起こして逃亡していった犯罪者だ。情容赦を掛けるべき相手じゃない」 北野はまるで自分に言い聞かせるように、トーンを落としながら言った。 （オレだって降伏時に艦隊勤務だったら、むざむざボラーの軍門になんか降らなかったさ。だが、今は地球にいる同胞のために耐えるしかない･･････） 攻撃対象を基地のドック施設から発進してきた駆逐艦へと切り替えたイーグルとファルコンだが、あいにくと今回の作戦では地上攻撃用の兵装を主体としていることもあり、たかが２機では効果的な攻撃を加えることは出来ない。おまけに混乱から立ち直った基地の防空兵器が襲い掛かってくる。 「残念だけど、これまでみたいね」 対空放火を除けながら春香が言った。 「もうちょっとだったのに･･････」 恭子は悔しそうに言った。 「運が無かったのよ。発進時間の繰り上がりに作戦が対応できなかったんだから」 「どうするの？」 恭子は不安げに訊ねた。 「これだけのことやったんじゃ、投降しても即刻銃殺は間違いないわね。海賊に捕虜規定なんて関係ないし･･････かと言って、この惑星で逃げ延びるってのも不可能に近いわ。この基地周辺以外じゃ、人間の生存できる環境なんて限られてるからね。残るは･･････」 「最後まで戦って、美しく散りましょう･･････か」 「そういうこと」 ２人はほとんど諦め顔でそう言い合った。 しかし、その時だった。通信回路に別の声が入ってきたのは。 「あんまり景気の悪い話はやめてくれない？ お二人さん」 「吉野少佐！？」 コックピットのレーダーパネルが上空から接近する多数の光点を捉えていた。そしてヘッドアップに示される味方識別表示。 「ご苦労さま。ちょっと待たせすぎたかしら」 それは吉野少佐に率いられた航空戦艦アスカ・第２航空隊のコスモイーグルの編隊だった。 第４惑星の大気圏上層から舞い降りてきたコスモイーグルの編隊はまず、上昇しつつある３隻の駆逐艦に襲い掛かり、次いで基地の防空施設を叩き始めた。 駆逐艦の１隻は機関部が被弾し、火を吐きながらケイローン・シティー郊外の砂漠に墜落。残る２隻も辛うじて対空レーザー砲で耐え忍んでいる様子であった。乾燥しきった大気のせいもあって、コスモイーグルの攻撃によって舞い上がった粉塵が基地の大半を覆い隠す。 「何とかヤマトの発進は阻止できたみたいだし、これで作戦は成功したも同然ね」 恭子がそう言って一息つこうとした時だった。 「え、何？」 基地を覆う粉塵と煙の中から、巨大な物体が急速に浮き上がってくるのが目に止まった。やがて、それは独特のシルエットを現してくる。 「ヤマト？」 「基地ごと見えなくなったのを利用して強行発進してくるとは、なかなか切れるわね、ヤマトの操艦者」 そう言いながら機首を転じる吉野少佐の編隊。 「土方少尉、鳥見少尉、付いて来なさい。ヤマトを追撃するわよ」 「ヤマトを攻撃するんですか？」 不服そうに訊ねる恭子。 「このままボラーに渡すわけにはいかないでしょ」 |