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第３章 「航空戦艦アスカ」 |
（４／８） |
| そして次の日の定例ミーティング。 「鳥見少尉。遅刻は勤務放棄とみなして減俸ものよ」 遅れてブリーフィングルームに入ってきた春香に、吉野少佐は厳しく注意する。しかし、春香は適当に聞き流すかのような態度で恭子の隣の席にづかづかとやってくると、機嫌悪そうにどかっと腰を下ろした。 「人が寝てる間に、勝手にベッドに縛り付けないでよ！ 一晩中、金縛りに遭った夢にうなされちゃったじゃない」 「あたしが安心して眠れるためよ。あんたを野放しにしといたら夜中に何されるかわからないもんね」 恭子は平然と言い返した。 「だからって、あのまま縛り付けられたままじゃ、一人で起きられないじゃない」 「あんまり静かで平和だったから、それは気付かなかったわ」 あくまで平然と受け流す恭子の態度に、春香は怒ったように言った。 「今度やったら、絶対に許さないわよ！」 「そんな言葉、自分の行いを正してから言いなさい」 「もう恭子には何もしないわよ」 春香は根負けをしたように、そう言った。 「新しいメンバーを紹介するわ」 第2航空隊全体ミーティングの最後に吉野少佐はそう言うと、ブリーフィングルームに一人のパイロットを招き入れた。その姿を見た恭子は驚いた。 「あなたは･･････」 先日、焼肉屋で空間騎兵たちに絡まれていた女性がそこにいたのだ。 「確か、秋篠しょ･･････ちゅ、中尉？」 先日は確かに少尉を示していた階級章が、中尉のものに変わっているのに気付き、恭子は慌てた。 「本日付けで中尉に昇進しましたの」 女性はそう言って、にこりと微笑んだ。 「元地球防衛軍火星基地・実験航空団所属のテストパイロット、秋篠真瞳架中尉です」 真瞳架は一同に向かってお辞儀をした。 「秋篠中尉には鳥見少尉と土方少尉を率いて小隊を持ってもらうわ。転属早々、いろいろと大変なメンバーだと思うけど、がんばってね」 吉野少佐はそう言って真瞳架の肩を叩いた。 「ひょっとして、あたしたちの小隊長ってこの人なわけ？」 春香は不満そうな表情でつぶやいた。 「あのふざけた小隊マークやコードネームにはお似合いなんだろうけど、あんなおっとりした感じで、あたしや恭子の指揮なんか執れるのかしらね」 ミーティングが終わって、そう呟きながらブリーフィングルームを出ようとした春香を、トライスター小隊の愛河中尉が呼び止めた。 「真瞳架はああ見えても、私の訓練学校時代の同期の中では、パイロットとしての成績は私と一、二を争っていた腕前よ。実戦部隊から離れて実験航空団にいたから昇進は遅れたみたいだけど、舐めない方が良いわよ」 愛河中尉の言葉に不機嫌そうな表情の春香をよそに、恭子は興味深げに言った。 「秋篠中尉って愛河中尉の同期だったんですね。朝倉主任がファルコンの実験機のコスモゼロ改を乗りこなせるのは秋篠中尉だけだって行ってましたし･･････」 「土方少尉はあのコスモゼロを見たようね。元々コスモゼロは癖のある機体だけど、あの実験機はファルコン用に開発された装置を無理矢理積み込んでるから、その癖が何倍にも大きくなってるらしいわ。私もテストパイロットの候補に選ばれたけど、あの機体だけは十分に扱いこなせなかった･･････だから真瞳架には感心してるわ」 目を輝かせながら話を聞いている恭子に、愛河中尉は付け加えた。 「土方少尉は真瞳架と気が合いそうね。真瞳架とうまくやっていければ、あんたのプラスになるわよ」 「恭子は御愛用のファルコンに関係あるものなら、何でも気に入るのよ」 春香はぶっきらぼうにつぶやく。 「編隊同士の格闘戦では個人の腕前よりもチーム戦術がものを言うのよ。チームリーダーを信用しないパイロットが一人でもいるチームに、パイロットの個々の技量を十分に活かしたチーム戦術はできない。鳥見少尉、あなたが足を引っ張らないことを祈ってるわ」 そう言って去ろうとする愛河中尉に、春香は宣言した。 「今度の戦闘であたしたちの小隊がトライスター小隊より多くの戦績を上げれば文句無いってことですよね！」 それを聞いた愛河中尉は笑みを浮かべて去っていった。 |