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第3章 「航空戦艦アスカ」 |
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「春香、本気なの?」 レストルームの一角で日本茶をすすりながら、恭子は春香に聞き質した。 「愛河中尉のトライスター小隊って、アスカ航空隊の中でも絶えず上位の戦績を収めているトップクラスのエリートチームよ。そんなチーム相手に、生まれたてのあたしたちのチームが敵うわけなんか・・・・・・」 「そんなのやってみなければわからないじゃない!」 春香は意地になったように言った。 「恭子はもう少し自分の腕前に自信を持ってると思ってたんだけどなぁ」 「そりゃ、あたしもそれなりの自信はあるよ。でも、過信はしない主義なの」 恭子はそう答える。 「ありゃまぁ、相変わらず優等生的な模範解答ね。でも、あたしの見たところ、トライスター小隊でも模擬戦の個人成績であたしや恭子より上位なのは愛河中尉一人よ。あのおっとりした小隊長さんが本当に愛河中尉並みの腕前があるなら、何も心配は要らないはずよ」 勝算は十分にありと言った表情で自信満々の春香だが、恭子は不安だった。 「そうかなぁ」 手にしたカップのエスプレッソを飲み終えると、春香は立ち上がった。 「どこへ行くの?」 「小隊長さんの腕前を確かめに」 そう言って飛び出していく春香を、恭子は慌てて追いかけた。 真瞳架は格納庫にいた。整備主任の真由美と機体のことで何かを打ち合わせしている様子だった。 「秋篠中尉、模擬格闘戦のお相手願いますか?」 春香はいきなり用件を繰り出した。 「模擬格闘戦?・・・・・・大気圏内でやるの?」 絶対速度の大きい宇宙戦闘機の作戦行動半径は、大気圏内用戦闘機の行動半径と比べて桁違いに大きなものになる。加えて大気圏内では各種の空路設定が木目細かく割り当てられているため、訓練用の広大な空域を占有することが難しい。 したがって空母艦載機の戦闘訓練は通常、母艦の出港後に宇宙空間で行われるのが普通である。もっとも、基地所属の航空隊はそういうわけにはいかないから、そのための訓練空域を設けてあるのも確かである。 「司令本部に申請すれば訓練空域は確保できるでしょうけど、相手は私でなきゃダメなの?」 「小隊長の素晴らしい飛行技術をこの目で拝見させていただきたいですから」 「は、春香・・・・・・」 刺のあるような言い方をする春香に、恭子はハラハラして気が気でなかった。でも、真瞳架の反応はあっさりしていた。 「そういうことね・・・・・・でも困ったなぁ。私のイーグルはまだ調整が済んでないし、コスモゼロは訓練用の兵装も全部外されちゃってるし・・・・・・」 真瞳架は頭をひねった。 「恭子のイーグルを貸してあげなよ」 春香はそう言って恭子に同意を求めた。恭子はおずおずと肯く。 「ノン、それはダメ。土方少尉にも課題があるでしょ」 真瞳架は首を振って、それを拒否した。 「それやったら、おあつらえの機体があるで」 ずっと横でやりとりを聞いていた真由美が口を挟んだ。 「土方少尉の乗ってたファルコンや。中尉はんにも乗り慣れた機種やろうから、問題はあらへんと思うで」 「恭子のファルコン?」 さぞ名案とでも言うように得意顔の真由美に、春香は露骨に嫌そうな表情を向けた。 「なんや、鳥見少尉は不満そうやね。以前、土方少尉に負けたのがトラウマにでもなっとるんかいな」 「あれは、引き分けよっ!」 真由美にムキになって言い返す春香を見て、恭子は思わず吹き出していた。 「あたしだって、あれから腕は十分に上げているわ。今だったら絶対に勝ってるわよ」 春香は恭子を睨み付けながら言った。 「ほな、中尉はんがファルコンでもええっていうわけやね」 「その代わり、それで負けても機体の格闘戦能力の違いのせいにしないでね」 真瞳架はその条件をあっさりと受け入れた。 (どうせ勝たなきゃ、素直に小隊長として認めてくれないってわけね) |