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第３章 「航空戦艦アスカ」 |
（６／８） |
| その日の午前のコスモイーグルの慣らし飛行を終えて戻ってきた恭子は、シャワーで汗を流し、艦内服に着替えて空腹を満たしに士官食堂にやってきた。 アスカの士官食堂にはまだアテンダントロボットが採用されていないので、旧来通りのセルフサービスである。恭子はカフェテリアコーナーから適当に料理を選んでトレイに乗せると、一角のテーブルに春香の姿を見付けてそこに座った。 「秋篠中尉との勝負はどうなったの？」 あまり元気そうにない春香に、恭子は恐る恐る尋ねた。 「お願い、訊かないで」 春香はうるうる眼で哀願するように言った。 「その顔だと、見事に負けたって様子ね」 「負けたってどころじゃないわよ」 恭子が振り返ると、第１航空隊・シルフィード小隊の五位堂由希子少尉がいた。極東の宇宙戦士訓練学校・航空士官コースでの恭子と同期のパイロットである。 「模擬戦開始後、７分１５秒。一度も相手の背後を取れないままのノックアウト負け。鳥見少尉のことは第１航空隊でも有名だから、話題になってるわ。身の程知らずの跳ねっ返りが、自分の上官に楯突こうとして返り討ちに遭ったって」 「散々な言われようね。まあ根拠の無いことじゃないけど･･････」 由希子の言葉に、恭子は少し春香がかわいそうに思えてきた。 「恭子も気を付けなさいよ。チームメイトの影響受けて昇進に響いたりしたら大変だからね」 「鳥見少尉、土方少尉。話があるけど、良いかしら？」 由希子と入れ替わりにやってきたのは、吉野少佐だった。 「あなたたち、地球に帰ってみたいとは思わない？」 意外な吉野少佐の発言に、恭子も春香も、答える言葉が無かった。 「地球･･････ですか？」 恭子は恐る恐る聞き返した。 現在の地球は、建前上は地球連邦政府が存続しているとは言え、実質上ボラー連邦の占領下にある。地球連邦政府の協調性策もあって、占領開始時点から比べればその戦力は半減しているとは言え、その指揮下にある地球連邦軍の戦力を合わせると強大すぎる存在であり、それがために独立政府軍もうかつに地球奪還に動けない状況なのだ。 「そう。これは極秘任務の潜入工作になるけど、場所が場所だけに危険度は高すぎるくらいだから･･････一応、メンバーの志願者を募ってるの」 「命令じゃないから、拒否は自由ってわけですね。でも、潜入工作って何をやるんですか？」 「詳しい話はここではできないけど、要人の地球脱出の手助けね。オファーがあったのは向こうからだけど、独立政府にとっては何がなんでも脱出させたい人材ってわけ」 恭子はどうしようかと判断にあぐねながら春香の顔を見た。 「たまの気分転換には良さそうじゃない。あたしは行くわよ」 さっきの勝負に負けたことを忘れたいのか、春香はあっさりと言い放った。 「仕方が無いな。付き合うか･･････」 恭子も志願することにした。 「メンバーが決まったら、艦長から呼び出しが掛かるから、任務の詳細はその時に説明があるわ」 吉野少佐はそう言い残すと、別の志願者を募りに去って行った。 「地球かぁ･･････」 恭子は最新鋭戦艦アリゾナで地球を飛びたった日のことを思い出した。初めての配属で緊張の中の発進だったから、地球を離れるということに対する特別な感情なんか抱いている余裕は無かった。ただ、発進の様子を第１艦橋で見学していた恭子は、地球を離れるアリゾナ艦橋の天井パネルに映し出された地球の全景が、何か儚げな美しさのように感じられたことを覚えている。 （その地球をボラーの手から取り返すために、あたしたちは戦ってるんだ） 恭子は自分たちの戦いの目的を改めて噛み締めていた。 |